脳は情報を自ら結びつけるときに言語を最もよく学びます。すぐに答えを伝えない会話設計は、学習者自身が推測し、連想し、意味づけを行うことを促します。Germane Cognitive Loadの理論によると、こうした努力が脳内に長期的な知識の構造(スキーマ)を作り出します。これは子どもが繰り返し聞いて意味を推測しながら言葉を覚える過程と同じです。研究によれば、“適度な難易度”や“理解できる曖昧さ”が持続的な言語習得の鍵となります — 言語は教え込まれるのではなく、自らの脳の中で「作り上げられる」ものなのです。
神経科学の観点では、脳が本当に“学習”するときは自分自身で理解を深めるために思考を働かせたときです。これを“Germane Cognitive Load(本質的認知負荷)”と呼びます。認知負荷理論(Sweller, 1988)では脳の負荷を3種類に分類します:
脳に推測や分析、連想をさせることで、脳内に“スキーマ”すなわち理解の枠組みが構築されていきます — これこそが本来の言語学習のプロセスです。
ワシントン大学のPatricia Kuhlの研究では、生後6~12ヶ月の乳幼児は統計的学習(statistical learning)を用いて何度も同じ音を聞き、自らパターンを見つけ出していることが示されています。例えば「banana」という言葉を繰り返し聞くことで、それが一つの単語だと自然に理解します。子どもは翻訳に頼らず、文脈から学びます。母親が「ごはん食べようね」と言いながらスプーンを持つと、「ごはん食べる」の音と“食事”や“温かい気持ち”を結びつけて覚えるのです。初めてではすべて理解できませんが、繰り返しの経験を重ねて少しずつ意味をつかんでいきます。これが最も自然な形のgermane loadの発生なのです。
UCLAのRobert Bjorkによると、これをDesirable Difficulty(望ましい困難)と呼びます。
つまり、“すべてがすぐに明かされない”言語学習は、脳に最適な負荷を与え、自分自身で意味を推測・解釈することを促します。この過程がシナプスの強化や神経可塑性(neuroplasticity)を最も促進します。
語学アプリの中の会話例を見てみましょう:
👧 “昨日、映画を見たよ。”
きのう、えいがをみたよ。
kinō, eiga o mita yo.
🧒 “へえ、誰と?”
へえ、だれと?
hē, dare to?
👧 “友だちと。とても楽しかった!”
ともだちと。とてもたのしかった!
tomodachi to. totemo tanoshikatta!
この例では、アプリはすべての単語の意味を即座に説明せず、例えば昨日(きのう/kinō:昨日)や楽しかった(たのしかった/tanoshikatta:とても楽しかった)なども会話の流れや“映画”“友だち”という文脈から理解を推測できます。
脳は次のように働きます:
• 文脈から意味を連想・推測する
• 動詞のパターンを記憶、“〜た”は過去形に当たることに気づく
• 同じパターンを再び見た時に理解が深まる
これは、子どもが生まれたときから何度も繰り返して学ぶ方法ですが、大人向けには短時間かつ効率的に学べるよう工夫されています。
ミシガン大学のNick Ellisによると、“適度にコントロールされた曖昧さ(manageable ambiguity)”は脳にベイズ推論(Bayesian inference)を促し、推測と文脈をもとに理解を深める力を伸ばします。ちょっとした曖昧さは考える燃料となり、学習者が“文脈から推測する”習慣を持つことで、受身ではなく能動的な理解へと導かれます。
AIが瞬時に何でも教えてくれる時代、注意したいのは「AIに考えさせてしまう」ことでgermane cognitive loadが下がってしまうことです。MITの研究によれば、LLM(例:ChatGPT)を使った場合、脳波(EEG)は自分で考え文章を書く場合よりも有意に低いことが示されています。言語学習ではAIを「自動辞書」ではなく「思考のパートナー(コグニティブコーチ)」として活用し、「この単語はこの文脈でどういう意味だと思いますか?」と投げかけたり、理解できていない部分だけフィードバックを与えることでgermane loadを維持できるのです。
人が言語を最もよく学ぶのは、
子どもは話せるまでこのサイクルを何千回も繰り返します。大人も同じプロセスを、テクノロジーで「考えるきっかけ」を作ることでより速く・効果的に体験できます。本当の語学学習は単語の暗記ではなく、脳が「推測・連想し・より的確に意味をつかむ」力を鍛えていく練習なのです。それは、私たちが人生で最初の言葉を発した時から続くプロセスです。
参考文献: